2026年05月18日
もう一つの我が家”として暮らすために
ー特別養護老人ホーム「くにやす苑」
自宅での暮らしが難しくなったとき、
その先にある場所は、どのような空間であるべきでしょうか。
安心して過ごせること。
そして、これまでと変わらない日常の延長にあること。
特別養護老人ホーム「くにやす苑」は、
“もう一つの我が家”としてのあり方を大切にしながら設計された建物です。


敷地を有効に使うという視点だけで考えれば、
高層の建物とすることで、より多くの方に利用していただくことも可能です。
しかし私たちは、別の選択をしました。
施設には、合理的な機能だけでなく、
日々の暮らしの質を支える役割があると考えたからです。
これまで長い時間、地面に近い場所で生活してこられた方にとって、
自然と触れ合える環境は、安心や意欲につながります。
だからこそ、
土や緑を身近に感じられる、低層で開かれた空間を選びました。


人は、環境が大きく変わると、不安を感じやすくなります。
とくに高齢者にとっては、
これまでの生活の記憶や感覚が、そのまま安心感につながります。
くにやす苑では、
木のぬくもりや、障子、和紙の照明など、
和の要素を取り入れた空間としました。
どこか懐かしく、落ち着く空気。
それは単なるデザインではなく、
その人らしい暮らしを守るための設計です。


特別養護老人ホームは、
多くの方にとって、人生の最後の住まいとなる場所です。
だからこそ、私たちは、
「使いやすい」だけでは不十分だと考えています。
安心して過ごせること。
自分らしくいられること。
日々に小さな楽しみを感じられること。
そうした一つひとつを丁寧に積み重ねることで、
はじめて、その場所が“住まい”になります。
この建物の背景には、
社会福祉法人 大東福祉会様の大切な理念があります。
「利用者の尊厳を守り、その人らしい日常生活を支えること」
「地域とともに、福祉の向上に取り組むこと」
その想いは、空間の随所に反映されています。
建築は、形だけで完成するものではありません。
人の想いと重なり合いながら、
はじめて、その場所に意味が生まれていきます。


くにやす苑で目指したのは、
特別な施設ではなく、日常の延長にある“もう一つの我が家”です。
自然とともにあること。
慣れ親しんだ感覚を大切にすること。
そして、人の尊厳に寄り添うこと。
それらを丁寧にかたちにすることが、
福祉施設設計において最も大切なことだと考えています。