2026年04月23日
なぜ、この建築は“いかがわしい”と言われたのか
ー浜松・ハートランド設計の記憶
街に“余白”を残す建築という選択
浜松・ハートランドに込めた設計思想と、
その先の再生へ
建物は、時間とともに、街の中で役割を変え、記憶を重ねていきます。
平成9年、浜松市田町に誕生した商業施設「ハートランド」は、 まさにそんな“時間とともに育つ建築”でした。

浜松市田町に佇む「ハートランド」外観。街のにぎわいと静けさの境界に位置する建築。
にぎわいと、少しの混沌を受け止める場所
平成9年に、当社が基本設計から監理まで携わった浜松市田町の商業施設 「ハートランド」。
開店以来、小人数での集まりから大型宴会まで、 ライブ活動やミニコンサートなど、さまざまな時間を受け止める場所として、 まちなかのランドマーク的な存在になっていました。
1階には、隠れ家的なバーもありました。
外のにぎわいから少し離れ、奥へ入っていくような空気感。
そこには、一般的な商業施設とは少し違う、奥行きのある空間構成がありました。
医療・福祉・公共建築を多く手がけてきた当社にとって、 商業施設への取り組みは、決して多いものではありません。 だからこそ、この建築には、街と人の気配をどう受け止めるかという問いが、 強く込められていました。
浜松・ハートランドという商業施設
ハートランドは、単なる飲食施設ではありませんでした。
静かにグラスを傾ける時間。
人が集まり、語らう時間。
音楽やイベントによって、場が熱を帯びる時間。
それぞれの過ごし方が、ひとつの建物の中で自然に共存すること。
そのために、空間を均質に整えすぎず、選べる居場所を重ねる構成としました。
1階のバーは、街の喧騒から少し距離を置いた隠れ家のような場所。
上階は、にぎわいを受け止める開かれた空間。
このコントラストが、訪れる人の感情にそっと寄り添う、 ハートランドらしさの核になっていたように思います。
奥へと誘うようなバー空間。視線の抜けと光の抑制が、落ち着きを生む。
にぎわいを受け止める上階空間。用途の変化に対応する柔軟な構成。
「いかがわしさ」と呼ばれた空気の正体
竣工当時、ハートランドは浜松市の都市景観賞にノミネートされました。
けれど、結果は落選。
その理由として、ある審査員の方がこう話されたと聞きました。
「あれだけは、いや。
何か、いかがわしい感じがする」
その話を聞いたとき、事務所内では大きな笑いが起きました。
けれど同時に、どこか誇らしい気持ちもあったのです。
なぜなら、その“いかがわしさ”は、 私たちがこの建築に残したかった、街の余白のようなものでもあったからです。
余白に、人は自分の時間を重ねていきます。
整いすぎた空間は、美しいかもしれません。
けれど、街の盛り場には、少しの誘惑や、説明しきれない気配が必要です。
人がふと立ち止まり、もう少し奥へ入ってみたくなる。
そんな感情を生む場所にこそ、商業建築の魅力が宿るのだと思います。
静謐のアプローチ、コンクリートの奥行きが導く階段。
光のグリッド、陰影の層、都市に刻まれた曲面
街の魅力は、整わなさにも宿る
作家・宮部みゆきさんが、生まれ育った深川の街について書かれていた言葉を、 ふと思い出しました。
町が創造的なエネルギーを持つためには、
何らかの形である種のいかがわしさを内包しなければならない。
街には、きれいに整理された機能だけでは生まれない力があります。
人の欲望。
偶然の出会い。
少しだけ踏み込んでみたくなる空気。
そうしたものが重なったとき、建物は単なる施設ではなく、 人の記憶に残る場所になります。
ハートランドは、まさにその入口をつくる建築でした。
時間を経て、再び動き出す建築
長らく閉店していたハートランドは、 コクヨ株式会社によりリノベーションされ、 新しく生まれ変わることになりました。
正直に申し上げると、 今回のリノベーションに私たちが関わることができなかったのは、 やはり心残りがあります。
この建築が生まれた背景。
空間に込めた意図。
街との距離感。
それらを設計段階から積み重ねてきた立場として、 もう一度向き合う機会があればと、自然と思ってしまいます。
けれど同時に、コクヨがこの場所にどのような視点を持ち込み、 どんな新しい価値を重ねていくのか。
いち設計者として、率直に楽しみでもあります。
建築は、完成した瞬間のものではありません。
時間の中で、さまざまな人の解釈を重ねながら育っていく存在です。
だからこそ、今回のリノベーションもまた、 この場所に新しい記憶と、これからの時間を生み出していくのだと思います。
そしてもし、この建築の「これまで」を知る設計者として関わる機会があったなら。
残すべきものと、変えるべきものを、 より輪郭のあるかたちで提示できたのではないか。
そんな自負があることも、ここに正直に記しておきます。
既存建築には、図面には残らない価値があります
リノベーションで大切なのは、 古いものを新しくすることだけではありません。
その建物が、どのように使われてきたのか。 どんな記憶を持っているのか。 街とどのような関係を結んできたのか。
そうした“見えない前提”を読み解くことで、 改修計画の質は大きく変わります。
- 過去の設計意図を尊重した改修
- 運用を止めない段階的リノベーション
- 地域との関係性を再構築する計画
- 建物の記憶を未来へつなぐ空間づくり
建物の記憶を読み解き、次の価値へつなぐ設計を。
もし今、既存建築の活用や改修をお考えであれば、
まずはその建物が持っている価値を、一緒に整理するところから始めてみませんか。
・この建物は、何を残すべきか
・どこに可能性があるのか
・どうすれば次の価値につながるのか
初期段階の構想整理からでも構いません。
設計者としての視点で、丁寧に伴走いたします。
このようなご相談がありましたら、初期段階からお気軽にお声がけください。
- 既存建築を活かしたリノベーションを検討している
- 商業施設・公共施設の再生計画を考えている
- 建物の記憶や地域性を活かした改修を行いたい
- 計画の方向性を整理するところから相談したい